大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)402号 判決

被告人 久場政義

〔抄 録〕

被告人の控訴趣意第一点について。

原判決挙示の証拠を綜合すれば、同摘示にかかる小林実に対する暴行と齊藤豊に対する傷害の各事実を十分に認定することができ、記録を精査検討し、原審が取り調べたその他の証拠を参酌しても、所論のごとく被告人と右小林とが互いに殴り合つたとか又右齊藤に対する本件傷害は同人の先制攻撃に対する正当防衛行為であるとかいう事実は到底これを認めることができず、むしろこれらの証拠を綜合考察すると、(一)小林に対する場合においては、被告人が先ず同人に対して因縁を付け、これを避けようとする同人の頭部、顏面部等を手拳をもつて十数回続けざまに殴打し、舎外に逃げ出し、地面に跪いて謝罪し、何等の手出しもしない同人の頭部、顏面部等を更に手拳をもつて十数回殴打し被告人の一方的行為に終始したことが明白に看取されるし、(二)齊藤に対する場合においては、なるほど被告人が同人の頭部、顏面部を原判示のごとく一升壜をもつて殴打するに先立ち、同人が被告人の胸部辺りを突いて来たか、又は少なくとも被告人を殴打しようとする姿勢をとつたことは認められるが、右は所論のごとく何等の手出しもしない被告人に対して加えられた一方的な先制攻撃ではなくて、被告人の小林に対する原判示暴行に端を発した被告人と齊藤との間の喧嘩が進展していつた右両名間の殴り合いの一段落に過ぎないこと、しかも被告人は齊藤より早く、いきなり同人に飛びついて殴りかかつて来たことも認められるのであるから、たとえ所論のごとく齊藤の体格が被告人より勝れ、齊藤の挙動によりその瞬間被告人がもつぱら防禦に終始する立場に立ち、それがため本件傷害があたかも防衛行為の観を呈することがあつたとしても、該行為は右斗争の全般からみれば、正当防衛に該当するものでないことは、多言を要しないところであり、原判決には所論のごとき理由不備又は審理不尽による事実誤認の疑はいささかも存せず、論旨は理由がない。

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